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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)537号 判決 1995年12月06日

原告

山中恵美子

被告

猪貞子

主文

一  被告は、原告に対し、金四三万円及びこれに対する平成四年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、二五三万一五〇〇円及びこれに対する平成四年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成四年八月一五日午前一一時一〇分頃

(二) 場所 神戸市北区星和台二丁目五―二

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(神戸五四と五二〇一)

(四) 被害車 原告所有の普通乗用自動車(神戸三三に一八九六)

(五) 事故態様 加害車が停車中の被害車の右側面に接触した。

2  責任原因

被告は、加害車を運転して停車中の被害車の右側面に接触させたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故により受けた相当な物的損害を賠償する責任がある。

二  争点

損害額

第三争点に対する判断

一  損害

1  代車使用料(請求額・一四〇万円) 一九万円

(一) 証拠(甲二、三の1、2、七、八、検甲一、二、乙五ないし七、検乙一ないし八、証人山中義夫、同有吉時男、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、平成二年一月二六日、被害車であるベンツ(型式・E―二〇一〇三五)を約九〇〇万円で購入した。

原告は、医師である父の経営の医院の仕事の補助や家事をしており、往診のため父を乗せ、保険の請求に行き、買物や旅行に行くなど、医院の仕事、家事、私用等に被害車を使用していた。

(2) 本件事故により、被害車の右フロントドア部分を中心にその周囲に明らかな擦り傷が残り、ドアミラーが外れ、ワイヤーが垂れ下がつた。

その修理として、被害車の右フロントフエンダとドアの板金をし、ミラーとモールを取り替えた。

その修理前頃、原告は、弟の義夫を通じて、被告ないしは加害車の任意保険付保会社(以下「被告側」という。)に対し、被害車に代えて新車を要求したり、ドイツでの塗装とか全塗装を要求したが、被告側が日本における部分塗装で十分である旨主張し続けたため、結局、原告も了承し、被告側の考えどおりの修理がなされた。

また、原告は、右修理期間中の代車費用として一日当たり二万五〇〇〇円を要求したが、被告側は認めることのできない額であると返事をしていた。

(3) 原告は、平成四年八月一七日、修理のため、ベンツの日本代理店である株式会社ヤナセ(以下「ヤナセ」という。)に被害車を持ち込んだ。同車は、同日、ヤナセからその外注先のアトラスオートに搬入されて修理がなされ、同月二八日にヤナセに引き渡され、同年九月一日に原告に納車された。右修理代金として四三万二六〇〇円を要した。

(4) 被害車のボデイカラーはアストラルシルバーメタリツクで、標準仕様であつたが、原告は、被害車の右修理部分と従前の部分の塗装の色の違いを許容することができず、被告側に全面塗装を要求した。

原告は、右全面塗装につき被告側の明確な了承は得られなかつたが、平成四年九月一八日に被害車をアトラスオートに持ち込み、全面塗装をしてもらい、同車は、同年一〇月六日にヤナセに引き渡され、同月九日に原告に納車された。

原告は、右各修理期間中、代車を利用せず、タクシー等を利用していた。

(5) 右全面塗装後、被告側の示談担当者は、原告方を訪ね、本件事故につき、示談交渉をした。

その際、原告は、一日当たり二万五〇〇〇円として五〇日間の代車費用を要求し、右全面塗装後も色調の違いが生じているとして不満を述べた。

これに対し、被告側は、到底、原告の右要求をそのまま受け入れることができなかつたところ、原告が少しも譲歩する気持がなかつたため、示談成立の見込みがないものとしてその交渉を打ち切つた。

(二) 原告は、被告側の示談担当者有吉時男が一日当たり二万五〇〇〇円の代車料を認めていた旨主張し、証人山中義夫の証言中には右にそう部分があるけれども、右を裏づける書証は存在しないうえ、証人有吉時男の証言に照らすとにわかに採用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(三) ところで、代車使用料は、車両が使用不能の期間に代替車両を使用する必要があり、かつ現実に使用したとき、相当な範囲内で認められると解するのが相当である。

被告は、右全面塗装は必要でなかつたと主張し、証人有吉時男の証言中には右にそう部分がある。しかし、甲八によれば、被害車は登録日よりも二年半以上が経過しており、一般的に時の経過により、車両のボデイカラーは変化し、部分塗装の場合、どうしても色目の差が生じること、現実に部分塗装後の被害車の右フロントドアーと他の部分に色目の差が生じていたことが認められる。右認定に照らすと、右主張はにわかに採用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

従つて、被害車は、本件事故により、右各修理期間の合計三八日間、使用不能であつたというべきである。

右認定によれば、原告は、被害車の右各修理期間中、代車を使用することなく、その仕事等にタクシーを利用していたから、そのタクシー代の相当な範囲内で代車使用料を認めるのが相当であるが、本件全証拠によつても、そのタクシー代は明らかではない。

そこで、被害車の車種、その修理期間、原告の仕事内容等本件に現れた諸般の事情を総合考慮のうえ、一日当たり五〇〇〇円として三八日間分である一九万円を相当な代車使用料と認めるのが相当である。

2  車両評価損(請求額・八〇万円) 二〇万円

前記認定によれば、被害車は、しかるべき業者のもとで、しかるべき修理がなされ、結局、全面塗装もなされたものであるから、その修理は完全になされたというべきで、本件全証拠によつても、全面塗装後は、塗装の色目等を含めて修理が不完全であつたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

ところで、原告は、本件事故により、被害車に八〇万円の評価損が生じた旨主張し、甲五の記載及び証人山中義夫の証言中には右にそう部分がある。

しかしながら、右記載及び証言部分は、右金額を裏づける合理的な根拠がないうえ、本件事故が加害車と被害車の接触に基づき、被害車に接触痕が残つた程度に過ぎないうえ、完全に修理がなされたとの前記認定に照らすと右評価損害額をそのまま認めることはできない。

他方、完全に修理がなされれば、評価損が生じる余地がないとの被告の主張も、事故歴のある車両は、そのこと自体で交換価値が下落するというわが国の実体を無視することになるから、採用できない。

そこで、被害車の車種、年数、損傷の内容、程度、修理費用額等諸般の事情を総合考慮のうえ、二〇万円をもつて被害車の評価損とみることとする。

3  弁護士費用(請求額・三三万一五〇〇円) 四万円

本件事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑みると、相当な弁護士費用は四万円が相当である。

二  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、損害賠償金四三万円及びこれに対する不法行為の日である平成四年八月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。

(裁判官 横田勝年)

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